お茶を愉しむ

茶器・道具
コラム
2017.1.1

抹茶で創る、抹茶茶碗

山政小山園の抹茶を釉薬に。若手陶芸家小野譲氏との試み

抹茶釉薬を、幾重にも。

 「釉薬が薄くしか素焼素地に乗らないため、釉薬をかけては素焼きを繰り返す。その工程をある程度厚みが乗ったと判断できるまで、丁寧に続けました。そして本焼きしたものが今回の青磁です。」(小野氏)

 抹茶ブームの到来で、抹茶や抹茶飲料が、様々な場所や器で飲まれるようになりました。しかし、抹茶を点てて飲むうえで、茶碗に優るものはありません。山政小山園は、若手陶芸家小野穣(ゆたか)氏と協力し、当社の抹茶そのものを釉薬の原料とし、釉掛けした抹茶茶碗の制作を試みました。そして仕上がったのが、この美しく透明感ある青磁色の茶碗です。

抹茶で創った茶碗で抹茶を飲む。

 抹茶は釉薬にすると、どんな色彩になるのか。半ば冗談のような小野氏との会話から、この茶碗が生まれました。通常陶磁器は、粘土で作った器をそのまま焼き(素焼き)、その後陶器の表面に釉薬を釉掛けして、もう一度焼くことでつくられます。表面をガラス質が覆い、小孔をふさぐため耐水性が増すうえ、ガラス質特有の光沢や、様々な色や模様が得られます。釉薬は、粘土を水で溶いたものに木灰や藁灰を加えたものですが、今回木灰や藁灰の代わりに「抹茶灰」(抹茶を灰にしたもの)を原料とし、濁りのない綺麗な透明釉が生まれました。

制作風景.png

ハート型の茶碗「猪目茶碗」とは。

 茶碗の形は、小野氏が生涯のテーマとする「猪目茶碗」(商標登録申請中)です。「世界共通の愛を表すハート型は、日本では「猪目」(イノメ)という名前で親しまれ、お城や神社仏閣等で見ることが出来ます。例えば、長野の諏訪大社の灯籠の穴や、釘隠し、刀のツバ、鎧の胸飾り(真田丸)等です。おそらく、仏陀が悟りを開いたと言われている菩提樹の葉の形が、日本に伝わったのではないかと想像しています。「猪目」は女性の安産を願うお尻の形、という縁起ものでもあるそうです。ハート型は実は日本文化に根差した形なんですね。僕は、ハート型である「猪目茶碗」を通して、茶人をはじめお使いになる方々に、愛の心が伝わる器であって欲しいと願っています。」(小野氏)

世界で愛される抹茶に。

 現在抹茶は海を越え、飲料や菓子等の原料、日本文化のひとつとして、グローバルな存在となりつつあります。我々は、国や文化、歴史や作法にこだわることなく、抹茶が「美味しい飲み物」として、世界中で愛される存在になることを願っています。

 現在こちらの茶碗について当社でお取扱い予定はございませんが、抹茶釉薬の抹茶茶碗、陶芸家小野穣氏についてのお問合せやご紹介は、当社企画室まで。

取材・文章 山政小山園企画室

小野穣(おのゆたか)氏のご紹介

小野氏プロフィール.png

一九六八年福岡生まれ。名古屋芸術大学卒業後、メナード美術館学芸員を経て愛知県瀬戸市にて一九九九年に工房を構える。伝統的なものから現代茶器、オブジェ等制作。近年は茶器を中心に海外個展を開催。フランス リヨン大使館所蔵。ハート型のデザインである猪目茶碗を生涯のテーマとし、アメリカ、スペイン、フランス、イギリスでの茶道具招待出品。

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