お茶を愉しむ

コラム
寄稿
2026.6.26

朝日新聞「私の視点」掲載――世界的な需要拡大と、抹茶文化の未来について

市場の拡大と成熟の先 残すべき抹茶の価値は

朝日新聞「私の視点」に、抹茶市場についての寄稿が掲載されました

世界的な需要拡大のなかで、いま抹茶に起きている「拡大と成熟の同時進行」

朝日新聞朝刊のオピニオン欄「私の視点」に、当社取締役・小山雅由の寄稿が掲載されました。

近年、抹茶は世界各地で急速に広がっています。

抹茶ラテやスイーツとして親しまれる一方で、産地や品種、栽培方法、製造方法、作り手の違いにまで関心を持つ人も増えています。

一般的な食品市場では、まず商品が広く普及し、その後、品質や背景への理解が深まっていきます。しかし、現在の抹茶市場では、「普及」と「成熟」が同時に進んでいます。

この急速な変化は、抹茶の可能性を広げる一方で、供給不足や価格高騰、品質と価格の不均衡といった課題も生み出しています。

抹茶は、単なる流行の商品ではありません。

日本で長い時間をかけて培われてきた食文化として、何を守り、何を伝え、次の世代へどのようにつないでいくのか。

茶園を持つ製茶問屋として栽培から製造に携わりながら、国内外の消費の現場を見てきた立場から、現在の抹茶市場について考えました。

朝日新聞デジタルの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

朝日新聞デジタル「私の視点」
https://www.asahi.com/articles/DA3S16490359.html

以下に、寄稿原稿の全文を掲載します。

拡大と成熟が重なる、新しい抹茶市場

近年、抹茶の需要が世界的に拡大している。抹茶を使ったラテやスイーツは各地で定着し、観光客が日本で抹茶を求める光景も日常的になった。健康志向や日本文化への関心の高まりも加わり、SNSでの視覚的な広がりも後押しし、従来とは異なる規模と速度で、各国・各地域で同時多発的に市場が広がっている。

私自身、茶園を持つ製茶問屋として栽培から製造に携わると同時に、自社ブランドのカフェを運営して国内外の消費の現場にも関わっている。一連の流れを見ている立場からすると、この広がりは、単なる需要拡大では説明しきれないと感じている。

というのは、新しい食品は本来、まず広く普及し、その後に徐々に品質や違いへの関心が高まって市場が成熟していくが、抹茶の場合はそれらが同時並行で進んでいるのだ。

背景には、需要の広がり方の特性がある。ある地域では、抹茶風味製品が受け入れられ、別の地域では成熟した市場では産地や作り手に着目した選択が行われている。段階の異なる市場が同時に拡大しているため、結果として、あらゆるグレードの抹茶に需要が押し寄せている。

また、ネット上で国境を越えた情報拡散や購買が容易になり、円安も重なって訪日観光客や実際の消費が拡大し、本来ゆっくり進むはずの市場の成熟過程は大きく短縮された。

こうした構造の中で、いくつかの変化も生じている。まず、需要の増加に供給が追いつかない状況が続いている。抹茶は原料の生産量が限られ、栽培・製造に高い技術を要するため、短期間で供給を増やすことは難しい。その結果、品薄や急激な価格高騰も生じ、長く抹茶を楽しんできた人々まで手に入れにくくなっている。品質と必ずしも一致しない価格が形成される場面も増えている。

一方で、嗜好品としての側面も強まっている。造り手や産地、品種や栽培・製造方法の違いに着目して味わいを楽しむ動きは、ワイン市場の発展とも重なる。

このように抹茶市場では、手軽に楽しめる領域の拡大と、需要の集中による価格や供給のゆがみ、そして嗜好品としての成熟が、同時に進んでいる。これは単なるブームではなく、拡大と成熟が重なり合う新しい局面である。

抹茶は日本で培われてきた食文化の一つである。いま問われているのは、この広がりを俯瞰的に捉えた上で、何を価値として残し、どのように伝えていくのかという、その選択そのものではないだろうか。


初出:朝日新聞朝刊「私の視点」
執筆:株式会社山政小山園 取締役 小山雅由

※本ページには、執筆者が著作権を有する寄稿原稿を掲載しています。朝日新聞紙面および朝日新聞デジタルの見出し、写真、紙面構成、レイアウト等の権利は、株式会社朝日新聞社その他の権利者に帰属します。

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